魚には旬があります。「アジは夏」「サンマは秋」「ブリは冬」など、季節によって美味しい魚が変わることは多くの人が知っています。しかし、なぜ魚に旬が生まれるのかをきちんと説明できる人は意外と少ないものです。今回は魚屋として長年魚と向き合ってきた経験をもとに、魚の旬がなぜ生まれるのかをわかりやすく解説します。
【旬とは何か】
旬とは、その食材が最も美味しく栄養価が高い時期のことです。魚の場合は脂がのっていて身が充実している時期が旬にあたります。
旬の魚は味が濃く旨味が強いだけでなく、市場に多く出回るため価格もリーズナブルになる傾向があります。旬を知って魚を選ぶことは、美味しさとコストパフォーマンスの両方を手に入れることにつながります。
【旬が生まれる理由① 産卵前に脂がのる】
魚の旬が生まれる最大の理由のひとつが産卵です。魚は産卵に備えてエサをたくさん食べて栄養を蓄えます。この産卵前の時期が最も脂がのって旨味が強くなります。
たとえばサンマは秋に南下しながら産卵の準備をします。この時期のサンマは北の海でたっぷりエサを食べて脂をたくわえているため、身がふっくらとして旨味が強くなります。これが「秋サンマは美味しい」といわれる理由です。
一方で産卵直後の魚は栄養を使い果たしてしまっているため、身がやせて味が落ちます。同じ魚でも産卵前と産卵後では味が大きく変わるわけです。
【旬が生まれる理由② 水温と餌の関係】
魚の旬には水温と餌も大きく関係しています。海の水温が上がる春から夏にかけてはプランクトンが大量発生し、それを食べる小魚が増えます。その小魚を食べる魚も活発にエサを食べるようになるため、脂がのって旨味が増します。
アジやイワシが夏に美味しくなるのはこのためです。暖かい海でたっぷりエサを食べた魚は身が充実して味が濃くなります。
逆に水温が下がる冬は魚の動きが鈍くなり、エサをあまり食べなくなる種類もあります。しかしブリやタラのように寒い時期に脂をたくわえて旨味が増す魚もいます。
【旬が生まれる理由③ 回遊と漁場の関係】
回遊魚は季節によって移動するため、漁場に近づく時期が旬と重なることが多いです。
カツオは春に日本の太平洋側を北上し、秋に南下します。春の「初鰹」はさっぱりとした味わいで、秋の「戻り鰹」は脂がのって濃厚な味わいになります。同じカツオでも季節によってまったく違う美味しさが楽しめます。
ブリは冬に日本海を南下しながら漁場に近づきます。この時期のブリは脂が最もよくのっており「寒ブリ」と呼ばれて高値がつきます。富山県の氷見や石川県の能登のブリが有名です。
【旬が生まれる理由④ 身の充実度】
産卵や回遊とは別に、単純に魚の身が最も充実している時期が旬になることもあります。
真鯛は春に産卵期を迎えますが、産卵前の3〜5月が「桜鯛」と呼ばれる旬の時期です。桜の季節に合わせるように美しいピンク色の体で旬を迎えることから桜鯛と呼ばれています。この時期の真鯛は身が厚くて旨味が強く、まさに魚の王様にふさわしい味わいです。
【旬は地域によって違う】
魚の旬は地域によって異なることも知っておくと便利です。同じ魚でも漁場や水温が違うため、旬の時期がずれることがあります。
たとえばサバは全国各地で水揚げされますが、秋に旬を迎える地域もあれば冬に旬を迎える地域もあります。「関サバ」で有名な大分県では秋から冬にかけてが旬とされています。
地元の魚屋や漁港の情報を参考にしながら、その地域ならではの旬の魚を楽しむのも魚食の醍醐味のひとつです。
【旬の魚を見分けるポイント】
旬の魚は市場に多く出回り価格が下がる傾向があります。魚屋やスーパーで値段が手ごろになっている魚は旬のサインである場合が多いです。
また旬の魚は身にハリがあって目が澄んでいます。脂がのっている魚はお腹の部分を触るとふっくらとした感触があります。切り身の場合は断面がツヤツヤしていて身の色が鮮やかなものを選んでください。
魚屋に「今一番美味しい魚は何ですか?」と聞くのも旬の魚を知る一番の近道です。魚屋は毎日市場で魚を見ているので、その日一番状態のよい魚を教えてくれます。
【季節ごとの旬の魚まとめ】
季節ごとに代表的な旬の魚をまとめておきます。
春(3〜5月)
真鯛・カツオ(初鰹)・サワラ・ホタルイカ・アサリ
夏(6〜8月)
アジ・イワシ・スズキ・タコ・ウニ・アユ
秋(9〜11月)
サンマ・カツオ(戻り鰹)・サバ・鮭・イカ・松茸と合わせた鍋魚
冬(12〜2月)
ブリ・タラ・カニ・牡蠣・ヒラメ・フグ・アンコウ
これはあくまで代表的な目安です。地域や年によって旬の時期は前後することがあります。
【旬を外れた魚はまずいのか?】
旬を外れた魚がまずいかというと、そういうわけではありません。旬以外の時期でも十分美味しい魚はたくさんあります。
ただし旬の魚と比べると脂のりや旨味に差が出ることは事実です。同じ値段を出すなら旬の魚を選ぶほうが美味しいものが食べられるというのが魚屋としての正直な意見です。
また養殖魚は天然魚と旬の時期が異なることがあります。養殖技術の進歩により、天然魚の旬とは関係なく安定した品質の魚が年間を通じて供給されるようになっています。
【まとめ】
魚の旬は産卵・水温・餌・回遊など複数の要因が重なって生まれます。旬の魚は脂がのって旨味が強く、価格もリーズナブルになる傾向があります。季節ごとの旬を意識して魚を選ぶことで、毎日の食卓がぐっと豊かになります。
魚屋として言わせてもらうと、旬の魚を旬の時期に食べることが魚料理を一番美味しく楽しむ方法です。ぜひ季節の魚を意識しながら魚選びを楽しんでみてください。
捌き方はおととチャンネルで解説しています。
https://youtube.com/channel/UCKgZWNzDVFenWKZGgvUjO6A
魚の「旬」はなぜ生まれるのかを魚屋が解説
魚の基本知識