シャコは、寿司屋のネタケースの中では見慣れていても、その正体を知っている方は意外と少ない生き物です。エビの仲間だと思われていることが多いのですが、実はまったく別のグループに属しています。独特の見た目と、ほろりとほどける身の甘み。ここでは、うちの魚屋でシャコを扱っている立場から、その生態や旬、美味しさの理由をお伝えします。
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【シャコはエビではない】
まず押さえておきたいのが、シャコはエビの仲間ではないということです。どちらも甲殻類ではありますが、エビが十脚目に属するのに対し、シャコはシャコ目という別のグループに分類されます。分岐した時期は非常に古く、見た目が似ているのは同じような環境で暮らしてきた結果にすぎません。
体のつくりを比べると違いがはっきりします。エビの胴は筒のように丸みがありますが、シャコの胴は上下に平たく、幅があります。だから殻の剥き方もまったく違い、エビのように背中側から剥くことはできず、胴の両側にはさみを入れて開く必要があるのです。この体つきの違いを知っておくと、剥くときに迷わなくなります。
【カマキリのような捕脚】
シャコを見分けるうえで最大の目印になるのが、頭のすぐ下に折りたたまれている捕脚です。カマキリの鎌によく似た形をしていて、普段はたたまれていますが、獲物を狙うときに一瞬で振り出します。
この一撃の速さは動物界でも屈指のもので、水中で繰り出される打撃としては極めて強力なことが知られています。シャコは砂泥の底に穴を掘って暮らし、そこを住処にしながら、通りかかる小魚や甲殻類、貝などをこの捕脚で捕らえて食べています。英語ではマンティスシュリンプ、つまりカマキリエビと呼ばれますが、これはこの捕脚の形から来た名前です。剥くときに頭を切り落とすと一緒に外れてしまう部分ですので、丸のまま買ったときに一度じっくり見てみると面白いと思います。
【生態と分布】
日本で食用にされるシャコは、北海道から九州まで広く分布しています。特に東京湾、瀬戸内海、有明海、そして北陸や東北の沿岸が産地として知られてきました。水深十メートルから百メートルほどの砂泥底に生息し、自分で掘った巣穴の中で暮らしています。
シャコは巣穴から遠くへ移動することが少なく、その場に定着して生きる生き物です。漁は主に底引き網で行われ、産地ごとに漁期が定められていることも多くあります。かつて東京湾はシャコの一大産地として知られていましたが、近年は漁獲量が大きく減少し、産地の顔ぶれも変わってきました。市場でシャコを見かける機会が昔より減ったと感じている方も多いのではないかと思います。うちの魚屋でも、シャコは毎日並ぶ品物ではなくなりました。
【旬の時期と味わいの変化】
シャコの旬は年に二回あると言われています。ひとつは春、もうひとつは秋から冬にかけてです。この二つは味わう部分が違います。
春のシャコは、卵を持った雌が中心になります。頭のすぐ後ろあたりに、オレンジ色から黄色の細長い塊として卵が入っていて、これはカツブシと呼ばれて珍重されます。卵の濃厚な旨みは、この時期にしか味わえないものです。ただし卵に栄養が回っている分、身そのものは少し痩せる傾向があります。
一方、秋から冬にかけてのシャコは、身がぷっくりと詰まって甘みが強くなります。卵はありませんが、身をたっぷり味わいたいならこちらの時期が向いています。同じシャコでも、春と冬では別の食べ物のように印象が変わりますので、両方の時期に食べ比べてみると違いがよく分かります。
【美味しさの秘密】
シャコの身は、エビとも蟹とも違う独特の質感を持っています。繊維がほろりとほどけるような柔らかさで、口の中で崩れていく感じが特徴です。この食感が、寿司ネタとして長く愛されてきた理由のひとつでもあります。
味わいの面では、シャコにはグリシンをはじめとする甘みのもとになるアミノ酸が含まれており、これが噛んだときの優しい甘さにつながっています。エビのようなはっきりした甘さではなく、もう少し穏やかで、後を引くような甘みです。この繊細さがあるからこそ、茹でるときの塩加減が味を大きく左右します。塩気が合っていれば何も足さずに美味しく、逆に塩が薄いと味がぼやけてしまいます。
そしてもうひとつ、剥いた後に残る殻と頭から良い出汁が取れるという点も、シャコの持ち味です。身だけでなく、殻まで含めて一つの食材として使い切れるところに、この生き物の面白さがあります。
【市場での扱いと魚屋の視点】
市場でシャコを見るときにまず確認するのは、活きているかどうかです。シャコは死んでから急速に自己消化が進み、殻の中で身が痩せていきます。活けのシャコが手に入るなら、それが最上の状態です。
活けでない場合は、すでに茹でられた状態のものを選ぶのが確実です。産地で獲れてすぐ茹でられたものは、そこで時間が止まっていますので、状態が保たれています。選ぶときは殻の色に赤みと艶があるかを見てください。
手に取ったときの重さも大事な判断材料です。ずしりと重みを感じるものは身が詰まっていて、軽いものは痩せています。同じ大きさでも重さが違うことがありますので、複数あるときは持ち比べてみてください。うちの魚屋でも、シャコが入荷した日はこの重さを確かめてから店に並べています。手間のかかる食材ではありますが、その手間を越えたところに独特の味わいがある、そういう生き物だと思っています。
【まとめ】
シャコはエビの仲間ではなく、シャコ目という別のグループに属する甲殻類です。胴が上下に平たいこと、頭の下にカマキリのような捕脚を折りたたんで持っていることが大きな特徴で、砂泥の底に巣穴を掘って暮らしています。旬は年に二回あり、春は卵を持った雌のカツブシが、秋から冬は身の詰まった甘みが楽しめます。ほろりとほどける食感と穏やかな甘みが持ち味で、剥いた後の殻からも良い出汁が取れます。鮮度の落ちが早い食材ですので、活けのものか、産地で茹でられたものを選ぶのが確実です。手に取ったときの重さを確かめて、身の詰まったものを選んでみてください。
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