イトヒキアジはアジ科の魚の中でも特に目を引く存在です。背ビレと腹ビレが長く伸びた糸状のヒレが名前の由来で、水族館でも人気の美しい魚として知られています。しかし食用としての認知度はまだ低く、市場でもなかなかお目にかかれない希少な魚です。今回は魚屋として実際にイトヒキアジを扱った経験をもとに、捌き方と下処理のポイントを詳しく解説します。
【イトヒキアジってどんな魚?】
イトヒキアジはスズキ目アジ科イトヒキアジ属に分類される魚です。最大の特徴は背ビレと腹ビレが糸状に長く伸びた美しい姿で、幼魚のうちはヒレが体長を超えるほど長く伸びています。成魚になるにつれてヒレは徐々に短くなりますが、それでも他のアジ科の魚にはない独特のシルエットを保っています。
体色は銀白色で体側に黄色い縦帯が走っており、見た目の美しさから観賞魚としても人気があります。体長は大きいもので60〜70センチに達することもあり、アジ科の中では大型の部類に入ります。
食用としての評価は高く、白身のきめ細かい身質と上品な旨味が特徴です。しかし流通量が極めて少なく、市場でも入荷があれば即座に売れてしまうほどの希少魚です。魚屋として正直に言うと、イトヒキアジが市場に入荷したという情報を聞いてもほとんどの場合すでに売り切れていることが多く、実際に仕入れられる機会は非常に限られています。旬の時期に産地の市場で出会えたときは思わず声が出るほど嬉しいものです。
【イトヒキアジの旬と入手方法】
イトヒキアジの旬は春から夏にかけてです。水温が上がる時期に活発に行動し、身質が良くなります。特に5月から7月にかけては脂のりも良く、食材としての魅力が最大限に発揮される時期です。
入手方法としては産地の魚市場や鮮魚専門店に問い合わせるのが確実です。スーパーの店頭に並ぶことはほとんどなく、釣りで偶然釣れることが主な入手経路となっています。沖縄・鹿児島・高知など温暖な海域が主な産地で、釣り人の間では磯や沖合でルアーに反応することが知られています。
【捌く前の確認ポイント】
イトヒキアジを捌く前に鮮度の確認を必ず行います。目が透き通っていてエラが鮮やかな赤色のもの、体に張りがあり触れると弾力を感じるものが新鮮な証拠です。せっかく希少なイトヒキアジを手に入れたからこそ、鮮度の確認を怠らず最高の状態で食べることを意識してください。
【用意するもの】
捌くために必要な道具は出刃包丁・柳刃包丁・まな板・ウロコ取り・ペーパータオル・バットです。イトヒキアジはアジ科特有の硬いゼイゴ(側線上に並ぶ硬いウロコ)があるため、ゼイゴの処理も必要になります。
【イトヒキアジの捌き方・手順】
ゼイゴを取る
イトヒキアジにはアジ科特有のゼイゴがあります。尾の付け根から頭に向かって包丁を寝かせて滑らせるようにゼイゴを取り除きます。ゼイゴは硬く鋭いため、取り除く際に手を切らないよう注意してください。両面のゼイゴを丁寧に取り除いてから次の工程に進みます。
ウロコを取る
ゼイゴを取り除いたらウロコを取ります。イトヒキアジのウロコは比較的細かく、ウロコ取りを使って尾から頭に向かって丁寧に取り除いてください。胸ビレの付け根や頭周辺など取り残しが出やすい部分も丁寧に処理します。
頭を落とす
胸ビレと腹ビレの付け根に沿って斜めに包丁を入れ、頭を落とします。イトヒキアジは骨がしっかりしているため、出刃包丁で力を入れて一気に落とすのがポイントです。
内臓を取り出す
肛門から包丁を入れて腹を開き、内臓を丁寧に取り出します。胆嚢を破らないよう注意しながら内臓を取り除き、腹の中を流水でしっかり洗い流します。背骨に沿った血合いはスプーンや指でかき出すように丁寧に取り除いてください。
三枚おろしにする
背骨に沿って包丁を入れ、三枚おろしにします。イトヒキアジは身がきめ細かく崩れやすいため、包丁を骨に沿ってしっかり当てながら丁寧に進めることが大切です。おろした身はすぐにペーパータオルで水気を拭き取ります。
腹骨と血合い骨の処理
腹骨を薄く削ぎ取り、残った血合い骨はピンセットや骨抜きで丁寧に取り除きます。イトヒキアジの白身は透き通るような美しさがあるため、骨の処理を丁寧に行って刺身や塩焼きでその美しさを活かしてください。
皮引き
刺身にする場合は皮を引きます。尾の方から包丁を入れて皮と身の間を滑らせるように進めます。イトヒキアジの皮は薄く引きやすいため、力を入れすぎず丁寧に行ってください。
【魚屋ならではの視点】
市場で長年仕事をしていると、問屋さんとの信頼関係がいかに大切かを実感する場面が多くあります。イトヒキアジのような希少魚は通常のルートではなかなか手に入りません。長年付き合いを続けてきた問屋さんが「今日珍しいものが入ったよ」と連絡をくれることで、初めて仕入れのチャンスが生まれます。こういった信頼関係は一朝一夕では築けないものであり、毎日誠実に向き合い続けることで少しずつ積み上げられていくものだと感じています。
【まとめ】
イトヒキアジはゼイゴを最初に取り除くことがアジ科の魚を捌く上での基本です。ウロコを丁寧に取り除き、内臓を取り出したら腹の中の血合いをしっかり洗い流してください。三枚おろしの際は身がきめ細かく崩れやすいため、包丁を骨に沿って丁寧に進めることが大切です。希少なイトヒキアジを手に入れた際はその美しい白身を最大限に活かすため、丁寧な下処理を心がけてください。市場でもなかなかお目にかかれない幻に近い魚だからこそ、手に入れたときは丁寧に捌いてその本来の美味しさを存分に堪能してほしいと思います。
魚の捌き方はおととチャンネルで解説しています。
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イトヒキアジの捌き方|魚屋が教える希少魚の下処理と基本手順
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