ケンサキイカは、イカの中でも甘みが強く、刺身にすると格別な味わいが楽しめるイカです。夏に旬を迎え、地域によって赤いか、白いか、マイカと呼び名が変わることでも知られています。スルメイカに比べると身が柔らかく皮も薄いため、捌くときのコツが少し違ってきます。ここでは、うちの魚屋で毎日のようにイカを扱っている立場から、ケンサキイカを家庭できれいに捌く手順とコツをお伝えします。
ケンサキイカの捌き方をYouTubeでも動画で解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
【捌く前に知っておきたいケンサキイカの体の特徴】
ケンサキイカはヤリイカの仲間で、胴が細長く、エンペラと呼ばれる三角形のヒレが胴の半分以上を占めているのが特徴です。スルメイカのエンペラは小さくて胴の先端にちょこんと付いていますが、ケンサキイカは大きく張り出しているので、見分けるときの目印になります。このエンペラが大きいということは、捌いたときに使える身が多いということでもあります。エンペラも刺身や炒め物に使えますので、捨てずに残しておいてください。
もうひとつ大事なのが、身が薄くて柔らかいという点です。スルメイカのつもりで力を入れると簡単に身が破れます。ケンサキイカを捌くときは、切るというより外していく、剥がしていくという感覚で手を動かすのがコツです。鮮度の良いものほど身に透明感があり、時間が経つと白く濁ってきます。透明なうちに捌くのが一番きれいに仕上がります。
【用意する道具と下準備】
必要なものは、よく切れる包丁とまな板、そしてキッチンペーパーです。特にキッチンペーパーは、ケンサキイカを捌くうえで包丁と同じくらい大事な道具になります。皮が薄くて指が滑るため、素手で引っ張ろうとしてもうまくいきません。キッチンペーパーで滑り止めをしながら剥がすと、驚くほどスムーズに進みます。
捌く前に、表面のぬめりを流水で軽く洗い流しておきます。ボウルに氷水を用意しておいて、外した身をその都度入れていくと、作業中に身がだれず、透明感を保ったまま仕上げられます。まな板はイカの匂いが移りやすいので、作業後にすぐ洗える状態にしておくと後が楽です。
【胴と足を外す手順】
まず胴の中に片手の指を差し込みます。胴の内側と内臓は背中側で薄い膜のようにつながっていますので、指を入れてぐるりと一周させ、そのつながりを丁寧に外していきます。ここを外しきらないまま引っ張ると、途中で内臓がちぎれてワタが胴の中に散ってしまいます。
つながりが外れたら、片手で胴を、もう片方の手で足の付け根をしっかり持ち、ゆっくりと真っすぐ引き抜きます。勢いよく引っ張るとスミ袋が破れて、身も手もまな板も真っ黒になります。うちの魚屋でも、ここだけはゆっくりやるようにと必ず伝えている場面です。ワタごときれいに抜けると胴の中に何も残らず、後の作業がぐっと楽になります。
【軟骨を抜いてエンペラと皮を剥がす】
胴の中に、透明なプラスチックの板のような軟骨が残っていますので、これを指でつまんで引き抜きます。すっと抜けるはずです。抜いたら胴の中を流水で洗い、内側に残った膜や汚れを落としておきます。
次にエンペラです。胴の先端側からエンペラを指でつまんで、胴に向かって引き剥がしていきます。このとき、エンペラと一緒に胴の皮も剥がれてきます。ケンサキイカは皮が薄いので、うまくいけば一気に胴の端まで剥けます。途中で切れてしまったら、その部分にキッチンペーパーを当ててあらためて剥がし直せば大丈夫です。皮は一枚ではなく何層かに分かれていて、外側の色のついた皮を剥いた後にも薄い膜が残ります。刺身にするなら、この薄皮までキッチンペーパーで拭うように剥がしておくと、口当たりが格段に良くなります。
【足の下処理とゲソの扱い】
足のほうは、まず目の少し上あたりで包丁を入れ、ワタと足を切り離します。スミ袋は細長い銀色の袋で、ワタに沿うようについていますので、破らないように指で引き抜いて取り除きます。
足が残ったら、中央にあるクチバシを取ります。カラストンビとも呼ばれる硬い部分で、足の付け根の真ん中を指で押し出すようにするとぽろりと出てきます。目玉も潰さないように包丁の先で外しておきます。最後に、吸盤に付いている硬いリング状の部分が気になる場合は、包丁の背でゲソをしごくようにこそげ落とすときれいになります。ケンサキイカは足も柔らかく甘みがありますので、天ぷらや炒め物で美味しく食べられます。
【刺身にするための切り方】
胴を刺身にするときは、筒のまま輪切りにするのではなく、縦に開いて一枚に広げてから切ります。開いた身をまな板に置き、繊維の向きを見て、繊維を断ち切る方向に細く切っていきます。ケンサキイカは繊維が縦に走っていますので、横に切ることで歯切れが良くなり、甘みも感じやすくなります。
厚さは五ミリ前後の細切りが食べやすく、家庭でもきれいに仕上がります。うちの魚屋でも、ケンサキイカを刺身用にお出しするときはこの切り方が基本です。もう少し厚めに切ると、もっちりとした食感が前に出てきますので、好みで調整してみてください。エンペラは皮を剥いてから細切りにすると、コリコリとした食感の違いが楽しめます。
【魚屋から見た捌き方のコツ】
ケンサキイカを捌くときに一番差が出るのは、力の加減です。とにかく引っ張らないこと、これに尽きます。皮も内臓も、外れる方向にゆっくり動かせば必ず外れるようにできています。抵抗を感じたときは無理に引かず、包丁の先で少しだけつながりを切ってやると、そこから一気にほどけます。
もうひとつは温度です。手の熱がイカに伝わると身が緩んで扱いにくくなりますので、作業は手早く進め、途中で氷水に戻しながらやるのがおすすめです。市場から店に運ばれてきたケンサキイカは、透明で身が張っているうちが一番きれいに剥けます。時間が経って皮が身に馴染んでしまうと、途端に剥がしにくくなります。買ってきたらできるだけ早く捌く、これが家庭で一番効く工夫だと思います。
【まとめ】
ケンサキイカは身が薄くて柔らかく、皮も薄いイカですので、力任せに引っ張るのではなく、ゆっくり外していくことを意識すると格段にきれいに捌けます。胴と足を外し、軟骨を抜き、エンペラごと皮を剥がして薄皮まで丁寧に処理すれば、透明感のある美しい身が残ります。足もクチバシと目を取り除けば、天ぷらや炒め物に十分使える立派な食材です。キッチンペーパーを滑り止めに使うこと、そして買ったその日のうちに捌くこと、この二つを押さえておけば家庭でもきれいに仕上がります。ぜひ旬の時期に、ケンサキイカならではの甘みを味わってみてください。
なお、刺身で召し上がる場合はアニサキスにご注意ください。アニサキスがいる魚介類は一度マイナス18度以下で24時間冷凍して下さい。
魚の捌き方はおととチャンネルで解説しています。

