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サーモンは家庭でいちばんよく食べられている魚のひとつですが、買ってきたあとの扱い方で味が大きく変わる魚でもあります。特に静岡で養殖されている国産のアトランティックサーモンは、一度も凍らせずに生のまま流通するという、輸入品にはない特徴を持っています。この違いを知らずに今までと同じ感覚で扱ってしまうと、せっかくの持ち味を活かしきれません。今回はうちの魚屋の現場でやっている保存と下処理のやり方を、家庭でも真似できる形にしてお伝えします。
サーモンの捌き方をYouTubeでも動画で解説しています。ぜひ合わせてご覧ください。
【まず押さえておきたいのは冷凍を経ていないということ】
輸入のアトランティックサーモンは、冷凍されたものか、生のまま空輸されて何日か経ったものがほとんどです。それに対して静岡のものは国内で育てられて国内で加工されるため、凍らせないまま店頭に並びます。この差が保存の考え方を根本から変えます。
冷凍と解凍を通った魚は、その時点ですでに細胞が壊れています。買った瞬間から水分が抜けやすい状態になっていて、時間が経つほど身が痩せていきます。だから輸入品はできるだけ早く食べきるのが正解です。ところが凍らせていない生のサーモンは細胞が保たれているので、正しく置いておけば数日はしっかり持ちますし、置くことでかえって味が良くなる場合すらあります。うちの店では、この二つはまったく別の魚だと思って扱っています。同じサーモンという名前でも、保存の仕方をそのまま当てはめてはいけません。
【買って帰ったらまず包装を外す】
家に着いたら、まずパックやラップを外してください。多くの方がそのまま冷蔵庫に入れてしまいますが、これがいちばんもったいない扱いです。パックの中には魚から出た水分がたまっていて、身がその水に漬かった状態になっています。この水分は生臭さのもとで、触れている時間が長いほど身に匂いが移ります。
外したら、キッチンペーパーで表面の水分を軽く押さえるように拭き取ります。こするのではなく、当てて吸わせる感覚です。その上で新しいキッチンペーパーで包み、さらにラップでぴったりと巻いて冷蔵庫のチルド室に入れます。チルド室がなければ、冷蔵室のいちばん奥の冷える場所で構いません。この一手間があるかないかで、二日後の状態がまるで違ってきます。
包んだキッチンペーパーは、翌日に一度取り替えてください。紙が湿ってきたら、その水分がまた身に戻ってしまいます。うちの魚屋でも、仕込んだ魚は必ず紙を替えながら保管しています。魚を良い状態で保つ作業の半分は、水分をどう逃がすかという話に尽きます。
【ドリップとの付き合い方】
赤い水分をドリップと呼びます。これは血ではなく、身の中から出た旨み成分を含んだ液体です。つまりドリップが出るということは、旨みが逃げ出しているということになります。
未冷凍の静岡サーモンは、輸入品に比べてこのドリップが出にくいのが大きな利点です。ただし、まったく出ないわけではありません。切り口が空気に触れている面積が広いほど出やすくなるので、家庭でできる対策としては切り口を減らすことが第一になります。買うときに柵で買っておいて、食べる直前に切るというだけで、ドリップの量ははっきり変わります。
もし出てしまっていたら、拭き取ってから調理してください。ドリップごと焼くと生臭さが残ります。拭き取ったあとに軽く塩を振って十分ほど置き、もう一度出てきた水分を拭くと、匂いがさらに落ち着きます。
【一日置いたほうが美味しくなることがある】
これは未冷凍の魚ならではの話です。買ったその日は身が締まっていて、コリコリとした食感が楽しめます。ところが翌日、あるいは二日目になると、身がやわらかくほどけるようになり、甘みと旨みがはっきり出てきます。どちらが良いかは好みですが、旨みを味わいたいなら少し置くという選択肢があることを知っておいてほしいです。
うちの店でも、その日に切って出すものと、少し寝かせてから出すものを使い分けています。冷凍を通った魚では、置いても味は良くなりません。ただ落ちていくだけです。置いて良くなるというのは、生の魚だけに許された特権のようなものです。
【下処理は小骨と皮をどうするか】
サーモンの身には、背側に沿って細い小骨が一列に並んでいます。これは骨抜きで一本ずつ抜いていきます。指先で身の表面をなでると、骨の先端が引っかかる感触があるのでわかります。抜くときは、骨が生えている向きに沿って斜めに引くのがコツです。真上に引っ張ると身が裂けて、そこから傷みが早くなります。
皮は、刺身にするなら引きます。まな板の上で皮を下にして置き、尾側の端の皮と身の間に包丁を入れて、皮を手前に引きながら包丁を前へ滑らせていきます。皮を引くのではなく皮を動かすというのが、うまくいくときの感覚です。焼いて食べるなら皮は付けたままのほうが香ばしく仕上がりますし、皮と身の間の脂が逃げません。
【切れる包丁が鮮度を守る】
意外に思われるかもしれませんが、包丁の切れ味は保存にも関わってきます。切れない包丁で切ると、身の断面の細胞が押しつぶされて壊れます。そこからドリップが出て、味も落ちますし傷みも早まります。切れる包丁でスッと切った面は、光にかざすと照りが出ます。
うちでは毎日、仕込みに入る前に必ず包丁を研ぎます。二十年以上ずっと続けていることで、これをやらずに魚を触ることはありません。美味しい魚をお出しするための大前提だと思っています。家庭でも、刺身を切る日だけでも簡易な砥石で軽く当ててから切ると、仕上がりがまるで違ってきます。
【どうしても使い切れないときの冷凍】
食べきれない分は冷凍しても構いませんが、生の良さは失われるということは知っておいてください。それでも冷凍するなら、やり方次第で差がつきます。
まず柵のまま、あるいは厚めの切り身のままにします。薄く切ってから冷凍すると、解凍したときに水分が一気に抜けます。次に一切れずつラップでぴったりと巻き、空気を抜いて保存袋に入れます。金属のトレーの上に置いて冷凍庫に入れると、凍るまでの時間が短くなり、身へのダメージが小さくなります。うちの魚屋の冷凍庫はマイナス二十度まで下がりますが、家庭用の冷凍庫はそこまで冷えません。だからこそ、少しでも早く凍らせる工夫が効いてきます。
解凍するときは、冷蔵庫に移して時間をかけて戻すのが基本です。急ぐなら、袋のまま氷水に浸ける方法もあります。常温に出したり電子レンジを使ったりすると、身の外側だけが温まってドリップが大量に出ます。冬場のうちの店では氷水を扱う作業がこたえますが、それでもこの方法がいちばん身を傷めません。
【まとめ】
静岡サーモンは一度も凍らせずに流通する生の魚なので、輸入のサーモンとは扱い方を分けて考えることが大切です。買って帰ったらすぐに包装を外し、水分を拭き取ってからキッチンペーパーとラップで包み直してチルド室へ入れてください。翌日に紙を替えるひと手間で、持ちが大きく変わります。切り口を増やさないよう柵で買って食べる直前に切ればドリップも抑えられますし、一日置くことで甘みと旨みが増すという生ならではの楽しみ方もできます。小骨は骨の向きに沿って抜き、包丁はできるだけ切れる状態にしておいてください。冷凍する場合は厚いまま素早く凍らせ、冷蔵庫か氷水でゆっくり戻すのが基本です。正しく扱えば、国産の生サーモンの持ち味を最後の一切れまで味わえます。アニサキスがいる魚介類は一度マイナス18度以下で24時間冷凍して下さい。
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